18 9月 私は産後1週間で化学療法を始めました
PiNK 2020 Summer Issue
作家のローラ・ピアソンさんは妊娠中に乳がん診断されたとき、孤独感を感じ、おなかの子供のことを思い不安だったと言います。
「妊娠20週目の検診の日に胸にしこりを見つけたのよ」と、当時、第2子を妊娠していた39歳のローラさんは話します。内科と乳腺科を受診してから数週間後、彼女が違和感を覚えたしこりが乳がんであると宣告されました。
「2016年のエイプリルフールデーに診断されたの。本当に怖かったわ」と彼女は話します。
孤独感
診断時は35歳だったローラさんは、治療計画を待つ間も不安な気持ちでいっぱいだったと言います。彼女は最悪の事態を恐れていたのです。
「子どもを守ることは人の本能に刷り込まれているわ。私はお腹の子を諦めなければならない、と言われるのではないかと心配だったの」
「こんな目に合ってるのは私だけなんだと感じてしまうことがあった。 ふたつのことに孤独を感じていたわ。まず、若い人が乳がんに罹患するとは思っていなかったのと、妊娠中の人が乳がんになるとは全く知らなかったのよ」
見逃してしまったこと
治療は、妊娠27週目に腫瘍を切除する乳腺腫瘤摘出術をすることから始まりました。
35週目で計画分娩し、赤ちゃんが生まれた後すぐに化学療法を開始する計画を立てていました。しかし、出産からわずか24時間後、娘のエローディちゃんは、ローラさんとご家族の家があるレスターシャーから遠く離れたシェフィールドの集中治療室へ移されることとなりました。その後、エローディちゃんは夫のポールさんの付き添いのもと2週間入院し、ローラさんは当時まだ2歳だったエローディちゃんの兄ジョセフ君と留まりました。
化学療法は、生後1週間のエローディちゃんが入院している間に始まりました。当時のことを思い返すとき、ローラさんは娘の人生の大切な時期を見逃してしまったように感じるそうです。
「振り返ってみると、娘が赤ん坊だった頃のことはあまり覚えていないの」とローラさんは言います。エローディちゃんの生後4カ月間、ローラさんは化学療法の治療を受けていたからです。
「とても惜しいことをした気分になるわ」と彼女は話します。
重なる悪い知らせ
ローラさんは、この時期に助けてくれた家族にとても感謝していると言います。
「私たちは、お互いの両親からたくさん助けてもらったのよ」
「ポールも私も料理や掃除をしなくてもよかったから、2週間後にエローディが病院から帰ってきたとき面倒をみることができたわ」
ローラさんは、彼女の母親も過去に乳がんを患った経験があったことから、乳がんのリスクを高める可能性がある遺伝子変異を調べる検査を勧められました。結果は、乳がんおよび卵巣がんのリスクを大きく上げるBRCA 2遺伝子変異の陽性反応でした。
「休暇中に電話で知らせを受けたの」とローラさんは言います。
「悪いことが立て続けに次から次へと起きているように感じられたわ」
その後、彼女は卵巣を摘出する手術を受け、両方の乳房も切除しました。
心の拠り所
ローラさんは、乳がんに罹患した若い女性にFacebookでプライベートチャットグループを提供している『Younger Breast Cancer Network』というグループを通じて支援を受けることができました。
また、このグループを通じて、Breast Cancer Now主催の45歳未満の女性を対象とした2日間のサポートイベント『Younger Women Together』を知りました。
「地元のサポートグループや乳腺科で私が出会う女性は皆、60、70、80代だったの。母が付き添いで一緒に来てくれるときは大抵、みんなは母が乳がんだと勘違いしてた」と、バースで開催された『Younger Women Together』に参加したローラさんは言います。
「同じ境遇の人が他にもいることを知って、肩から重荷が取れた気がした。強烈でエモーショナルな体験だったから、後になってどっと疲れがきたんだけど、自分と同じ年齢で同じような経験をした女性と話したときは、心の拠り所が与えられたように感じたの」
実現させる
ローラさんはクリエイティブ・ライティングの修士号を持っており、作家になりたいという思いがありました。あと一歩のところまで来たのですが、最初の2冊の小説の代理店や出版社を見つけることができずにいたのです。
治療を終えて間もない2016年11月、彼女は『NaNoWriMo』参加を決意しました。National Novel Writing Month(全国小説執筆月)と題されたこのチャレンジは、30日間で5万語を書き上げるというものです。
「Mummy’s Starの資金調達を行うための、チャリティにチャレンジにしたの」とローラさんは話します。Mummy’s Starは、妊娠中にがんに罹患した女性を支援している慈善団体です。
1年後、ローラさんは執筆した作品を小さな出版社に提出し、彼女の最初の2作品と共に出版することが決まりました。2019年に発売された 『I Wanted You to Know』 は、不治の病を患いながら娘に手紙を書く若い女性を描いています。
「私はこの本に、自分が最も恐れていることを書いたわ。これから起こり得るすべてのことを、先に吐き出してしまう手段だったの。本当に気持ちが軽くなった気がしたわ」 と彼女は語ります。
彼女は出版を可能にした成功の理由の一つとして、自身の乳がんの実体験を挙げています。
「これは私がずっと望んでいたものよ。実現させるほかになかったの」