03 7月 [J-TOP Interview] Dr. Nakashima
RFTC Japanは、日本におけるチーム医療、病理、そして放射線医療分野の発展に寄与するべく、2016年からJ-TOP(Japan Team Oncology Program)の支援に携わってきました。この支援によって、テキサス大学付属MDアンダーソンがんセンターで5週間の実施研修をするJME (Japan Medical Exchange) プログラムに、病理医と放射線診断医の参加が実現しています。
『J-TOPインタビュー』は、支援を通してJMEに参加された先生方を取材していく企画です。
今回インタビューに応じてくださったのは、放射線診断医であり、がん研有明病院 画像診断部 乳腺領域担当部長の菊池真理先生。ご自身の専門分野、研修からの学び、ビジョンについて聞きました。
ーー中島先生がどのようなことをされているのかを教えてください。
放射線診断医をしています。 CTやMRIなどの検査画像を診て診断するのが主な仕事で、今勤めている静岡がんセンターでは、日本で唯一乳腺画像診断科という乳腺に特化した画像診断の部門にいます。頭やお腹などの全身の検査画像も診断しますが、メインはマンモグラフィや乳腺の超音波、MRIなど、乳腺に関する画像を診て診断をしています。また、外来があるので、患者さんと話をしたり針生検をしたりして診断をつけるというところまでが我々の仕事ですね。乳がんと診断がついた患者さんは、乳腺外科や内科の先生に次の治療を依頼するということになりますし、もし良性病変であり画像で経過を見てもよいという方であれば、そのまま外来で定期的に様子を見るという方もいらっしゃいます。
ーー中島先生は針生検までご担当されているんですね。
そうですね。うちは特殊で、 超音波で見ながら乳房に針をさして診断するというのは、日本では乳腺外科医がしていることが多いんですよ。アメリカでは放射線科医がしているので、アメリカ式かもしれません。一番のメリットは、画像を我々がみて診断し、必要な病変に対して針生検をして診断するという一連の流れでするので、正確性が増すことです。このほうがいいだろうと私は考えていますが、放射線科にマンパワーがないので、なかなか日本のどこでもそれができるわけではないと思います。
ーー今、日本ではどのぐらいの放射線診断科医がいますか?
放射線診断医は少ないです。おおざっぱにいうと、アメリカでは約4万人近く放射線診断医がいますが、日本では5000人ぐらい。アメリカの人口は日本の2.5倍ぐらいですが、それを考えても少ないですね。放射線診断医の仕事というのは、機械の進歩と密接に関わってますので、例えば、20年前は1人の患者さんにつき数十枚のCTの画像を見ていればよかったのが、今では、機械の進歩のおかげで、細かく見ようと思えば何百枚とか、ときには何千枚という検査画像がすごいスピードで出てきます。機械の進歩とともに検査の精度と速さは増したけれど、放射線診断医の増加というのは微々たるものですから、人が少ないことに加えて圧倒的に仕事量が増えている、というのが放射線科医の状況です。さらに、乳腺を専門とする放射線科医は少ないんですよ。そこを一生懸命増やそうとしているような感じですね。
ーーどのようなきっかけで、放射線科医の道に進もうと思われましたか?
もともとは脳神経に興味があって。神経内科医になりたかったんですよね。でも卒業する年に放射線科医の医局長をしていた先生と知り合ったのをきっかけに入ったという感じですね。放射線科に入った後も脳神経の方に興味があって、 大学院のときも脳神経領域の画像の研究をしていたので、乳腺を専門にするというのは思ってもいませんでした。
ーーどのようなきっかけで、乳腺に特化するようになりましたか?
乳腺は放射線科医が見る臓器の一つだから、勉強をして試験を受けた方がいいと思ったのがきっかけでした。それまではマンモグラフィを見ることもほとんどなかったのですが、真面目に勉強して試験を取ったら、まぐれで良い成績だったんです。そうしたら、 マンモグラフィや超音波など乳腺画像の仕事が僕に回ってくるようになり、責任が生じたことで更に勉強したり、 学会に行ったり、自分で研究して発表したりしてるうちに、おもしろくなってきたんですよね。これを繰り返しているうちに仕事の中の乳腺の比重が大きくなった感じです。さらに、これからの放射線診断医に指導するために研究の手法や臨床についてもっと学びたいと思い、4年前に静岡がんセンターに来て乳腺画像診断科に入ってからは他のことはだいぶ犠牲になった部分はありますが、何かを選ぶということは何かを捨てることと思って納得しています。
“日本では見られないものを見て驚くところもあったし、このやり方でいいんだと安心するところもありました”
ーーJ-TOPについても聞かせてください。どのようなきっかけでJ-TOPを知りましたか?
菊池先生から直接話を聞いたのがきっかけでした。残念ながら放射線診断医でJ-TOPのことを知ってる人はすごく少ないんですよね。自分もそうですけど、菊池先生から聞くまで全く知らなかったんです。聞いてすぐに2018年のJ-TOPのワークショップに行き、その夏にはMD アンダーソンがんセンターに行ってますから、 展開が早かったです。本当に濃密な一年間でしたね。
放射線診断医というのは特殊で、下手したら画面を見ながら人とほとんど話さず一日が過ぎていくこともあるんです。もちろんある程度の連携は取ることはあっても、自分から積極的に発信したり、放射線診断医が中心になって何かをしようとすることは少ない科なので、J-TOPが掲げる「多職種チーム医療」に積極的に取り組もうというのはすごく新鮮で、あまり放射線科が関わってこなかったところだなと思いました。
ーーJMEでの5週間の中で、中島先生にとって印象的だったことをお聞かせください。
手術した後、ちゃんと腫瘍が取れているかどうか写真を見ながら外科医や放射線科医、病理医 がその場でディスカッションをしているんですよね。
日本の通常の方針からすると考えられないというか、発言するのは責任を伴うところがありますから、MDアンダーソンの放射線科医が積極的に発言しながら臨床に関わっていく姿勢にすごく感銘を受けましたね。ある程度の責任とリスクを負わないと、他科の信頼・連携は生まれにくいと思いました。
読影について何回か見学もさせてもらったんですけど、次から次に担当医が意見を聞きに来るのも印象に残りましたね。
私がいる乳腺画像診断科は日本では特殊な科なんですが、MDアンダーソンのbreast radiologistと仕事の範囲が似ていたので 直接参考になったこともありました。日本では見られないものを見て驚くところもあったし、自分はこのやりかたでいいんだと安心するところもありました。
ーーぜひ具体的に教えてください。
画像の見方や、針生検の仕方、手技の際、 正確性や安全性は同じところに気をつけてやっているんだなと思いました。一つあげるとすると、アメリカでは、多施設研究をして誰でもできる普遍的なやり方を求めるのに対し、日本では職人的なところがあるなというのを感じました。職人的というのは技術は高いけれども、逆に言うと他の人には同じことがなかなかできないですよね。だから、日本は画像診断の領域で多施設研究を行うことがまだまだ少ないので、普遍的にできるやり方で、それでいて良いものを見つけていくために研究をしたり発信したりしたいな、というのを向こうに行って思いました。
“なにか明るく発信できたらいいな、と思っています”
ーー次世代を教育していきたいという言葉が印象的だったので、もっと聞かせてください。
乳腺を専門に診断できる放射線科医を増やしていきたいんですよね。そのために、地道に声をかけたり、研究していることを社会に発信したりすることで、興味をもつ放射線診断医が増えたらいいなと思ってます。やっぱりエネルギーがあるところにしか人は集まってこないと思うんですよね。今年、実は乳腺を専門にしたいという放射線診断医が新しくひとり入ってくれました。静岡がんセンターには、せっかく乳腺画像診断科という専門科があるので、たくさんの若い人を受け入れて指導できる施設になればいいなと思っています。
ーー中島先生にとっての放射線科医の魅力はなんですか?
もともと放射線科医になったのは画像が好きだったというのがあるんですけど、画像診断は医療の中心にあると考えていますので、最新の機械をあつかい直接利用触れしながらそこで仕事ることができるというのが魅力であります。 また、放射線科医はアメリカだと「doctor’s doctor」という言われ方をされたりしますが、患者と話すことは少ないのですが医者と話すことが多いんですよね。患者さんの担当医にと意見を交換したりアドバイスできたりするというのもありますし、わたしは乳腺に特化しすぎてしまいましたが、放射線診断科医は全身を診られるというのも魅力かもしれませんね。
ーー縁の下の力持ちというかんじですね。
そうですね。私は力持ちかはわかりませんけど、縁の下ですね。感謝されるために仕事をしているわけではないですけれど、我々は直接患者さんからお礼を言ってもらえることがすごく少ないので、たまに言われるとね、倍嬉しいですね。乳がん診療は特に多職種で医療を行っているのがとてもわかりやすいところだと思います。医師だけじゃなくて、看護師、薬剤師、理学療法士など、いろんな専門職種が関わってその中心に患者さんがいるのは忘れてはいけないなと思います。中心は患者さんなんだよ、というのをJ-TOPでもそうですし、MDアンダーソンでも教えてもらった通りです 。時々それを忘れがちになって イライラしたりすることもあるけれど、それじゃあいけない、というのを日々言い聞かせております。
ーー中島先生のビジョンとミッションをお聞かせください。
ミッションは、 研究と教育を通して、乳がんを、進行しないうちに正確に診断できる新しい画像診断システムを構築していくことです。乳がんを無くすのは今のところは難しいので、命に関わらない段階でちゃんと見つけて治療をしてあげられるようにしたいです。 ビジョンは、そんな革新的な画像診断の手法を用いて早期に発見することで、進行乳がんを少しでも減らせる社会にすることです。
最近、かなり進行した乳がんの方が毎週のようにくるんですよ。 それこそ、いくら最先端の画像診断をしていても病院に来て検査を受けてくれないことには、どうしようもないんですよね。だから僕も画像診断医として限界を感じるところもあります。どうしてここまで放っておいてしまったのかなという人がいっぱいいるんですよね。気づいていたけれど怖くて病院に行けなかった、という人も多いです。だから情報を発信しないとダメだな、というのを本当に思っています。明るくね、なにか発信できたらいいな、と思っています。
ーーありがとうございました。
PHOTO_Dr. Kazuaki Nakashima
TEXT_Maria Sakiko Suzuki