私たちの免疫を用いて、がん細胞を破壊することはできるのでしょうか?

私たちの免疫を用いて、がん細胞を破壊することはできるのでしょうか?

PiNK 2020 Summer Issue

免疫療法、つまり免疫系ががん細胞を標的にして破壊するのを助ける治療法は、急速に研究が進んでいる分野です。Breast Cancer Nowから資金提供を受けて行われている免疫療法やその他の興味深い研究の背景にある科学的知見について、エド・ジョーンズが報告します。

免疫系:私たちの防衛隊

私たちの免疫系は、病気から私たちの体を守るために機能する特別な細胞、組織、器官で構成されています。

免疫系を構成する細胞は、白血球と呼ばれています。多くの種類があり、それぞれが独自の役割を担うことで、体を感染症から守ってくれています。そのうち一種類の白血球は、遭遇したウイルスまたは細菌を「食べて」粉々にし、破片を提示することで、その他の免疫系のスイッチを入れます。

また、別のT細胞と呼ばれる種類は、提示された細胞が敵か味方かを評価します。T細胞は免疫反応を誘発することで、敵に対してその他の免疫細胞を活性化させます。

このプロセスにおいて、別の種類の細胞は免疫系の記憶装置として機能し、抗体を生産します。体が以前に遭遇した危険に直面したとき、抗体がそれを認識して免疫系に対して警告を送ることで、より素早く対処することができます。

免疫療法の仕組み

免疫療法は、これらのプロセスを刺激し、免疫系ががん細胞を認識して破壊するのを助けるために、様々な方法で機能します。

しかし乳がんの免疫療法は現在もまだ研究の段階にあります。長い間、免疫は乳がんには有効ではないと考えられていました。しかし、乳がんや免疫系に関する知見が蓄積された今、その考えは変わりつつあります。

私たちが資金提供している多くのプロジェクトから、そのうちの二つをご紹介します。

安全な乳がんの免疫療法を開発する

キングス・カレッジ・ロンドンのジョン・マハー博士が率いる研究チームは、安全で効果的な乳がんに対する免疫療法の開発に取り組んでいます。ジョン博士は、HER2陽性の乳がんに効果のある免疫療法を開発しました。

いくつかの乳がんの細胞には、その表面にHER2と呼ばれるタンパク質が通常より多く発現しており、このタンパク質が、がん細胞を刺激して成長させます。このタイプの乳がんはHER2陽性と呼ばれており、乳がん患者の約5人に1人はこのタイプに分類されます。

残念なことに、HER2は心臓や肺の細胞などでも見つかることがあります。そのため免疫療法がそれらの細胞にも作用し、深刻な副作用を生じる可能性があります。

ジョン博士は、免疫療法を調整することで、副作用のリスクを減らそうとしています。乳がん細胞だけに働きかける安全機能を付け加えようとしているのです。他の正常な細胞にはなく、乳がん細胞だけに存在する分子を認識する安全機能を加えれば、その分子とHER2の両方を認識できる細胞にのみ免疫療法を行えるようになります。

まずはこの安全機能を開発してから実験室で試験的に免疫療法を乳がん細胞で試し、さらにその後マウスでの試験を行います。

この研究を通して、安全で効果的な免疫療法が実現される道が切り開かれるかもしれません。

がん細胞と正常な細胞を見分ける

カーディフ大学のアンドリュー・スーエル教授は、どうやって特殊なT細胞が有害な副作用を生じさせずに乳がん細胞を標的として破壊できるかを研究しています。この研究は、最終的に有望な新治療に繋がる可能性があります。

近年では、T細胞を用いた療法が、進行した皮膚がんの治療に効果があることが示されました。アンドリュー教授が率いるチームが、皮膚がんを標的とする役割を担う特殊なT細胞を発見したのです。現在は、この細胞を用いて乳がんを効果的に治療できる方法を模索しています。

彼らは、そのT細胞が正常な組織に害を与えずに乳がん細胞を標的にできることを発見しました。それだけでなく、この細胞の最も興味深い特徴として、すべてのがん患者の治療に使える可能性があるということが挙げられます。

T細胞は、HLAという分子を用いてがん細胞を認識します。この分子は人によって異なるため、T細胞療法はそれぞれの患者に合わせて個別に行う必要がありますが、アンドリュー教授のチームが発見した特殊なT細胞はHLA分子に頼らないため、より多くの人々の治療に利用できる可能性があリます。

このT細胞についてより深く理解するために、研究チームでは、この細胞がどの分子を認識してがん細胞を特定しているか、また、がん細胞と正常な細胞をどう見分けているかかを理解しようとしています。

このプロジェクトを通して免疫療法の分野を前進させ、安全で効果的かつ広範囲に渡って使用可能な乳がんの免疫療法の実現に繋げることが、アンドリュー教授の願いです。



パートナー