[J-TOP Interview] Dr. Kikuchi

[J-TOP Interview] Dr. Kikuchi

RFTC Japanは、日本におけるチーム医療、病理、そして放射線医療分野の発展に寄与するべく、2016年からJ-TOP(Japan Team Oncology Program)の支援に携わってきました。この支援によって、テキサス大学付属MDアンダーソンがんセンターで5週間の実施研修をするJME (Japan Medical Exchange) プログラムに、病理医と放射線診断医の参加が実現しています。

『J-TOPインタビュー』は、支援を通してJMEに参加された先生方を取材していく企画です。

今回インタビューに応じてくださったのは、放射線診断医であり、がん研有明病院 画像診断部 乳腺領域担当部長の菊池真理先生。ご自身の専門分野、研修からの学び、ビジョンについて聞きました。

ーー菊池先生がどのようなことをされているのかを教えてください。

私は画像診断専門医をしています。基本的にはCTやMRI画像より全身を診断するのですが、専門分野は、乳腺(ブレストイメージング)です。マンモグラフィーや超音波、MRIなどの画像を見て、どこに異常があって、考えれる病名を挙げ、次にどうしたらよいのかというレポートを書きます。

マンモグラフィ検診をして異常があったら、超音波検査で良性か悪性かを見極めます。悪性が疑われる場合には針生検が行われます。それによりがんと判明した場合、手術ができるかどうか、部分切除になるのか、全摘になるのか、あるいは化学療法を行うのかの判断が必要になります。その判断材料として、腫瘍の広がりを見るためにMRIをります。

これらの画像診断を総合的に判断して、がんの広がりや転移など必要な情報をレポートとして起こし、それを外科や腫瘍内科の先生などに情報提供をする縁の下の力持ち的な役割をしている医者です。

 

ーーどのようなきっかけで、乳がんを専門的に見るようになりましたか?

前任地である国立がん研究センター中央病院(以下、「国がん」)にくる前は、9年ほど聖路加国際病院(以下、「聖路加」)で働いていました。 自分の専門を何か持ちたいなと思っていた時に、たまたま聖路加に移りました。

聖路加では乳がんの手術も多く、乳腺の症例も多くありました。大学にいた時はマンモグラフィもほとんど読影経験がなく、乳腺について全くの素人だったのですが、関わっているうちに病理と外科と放射線科の先生が協力してカンファランスをしているのを見て、すごく良いなと思ったのがきっかけです。

乳がんの患者さんも増えているし、専門にするなら、乳腺がいいなとその時に思いました。読影だけをしていると、あんまり他の科の先生方との接触がないのですが、カンファランスを密に行うと、他の先生方との連携が生まれるんですよね。お互いの分野から自分の意見を言ったり、質問をしたり、されたりという双方向性の関係と連携にやりがいを感じています。

 

ーーカンファランスとはなんですか?

カンファランスは、患者さんの症例を検討するために関連する医療従事者が集まってするミーティングのことを指します。

例えば、手術前カンファランスでは、みんなで症例を一つひとつ見直します。検査の結果と手術のやり方がちゃんと一致しているのか、注意点はどの点か、などの細かいことをみんなで情報共有してから手術に臨んでいます。

また、術後カンファランスも行っています。手術後しばらく経ってから、手術や病理の結果、経過報告などをみんなで情報を共有して、今後の診療に役立てるために集まります。

 

ーー検査の件数はどのぐらいやってますか?

現在の勤務先であるがん研有明病院(以下「がん研」)は日本で一番乳がんの手術を行っているところなので検査の数もすごく多いです。マンモグラフィだと検診と診断を合わせて一日おおよそ100件近く撮影しています。
また診断MRIは、がん研が日本で一番多くの件数の撮像をしています。

“いろいろと勉強になったな、違う世界を見たなと思いました”

ーーJ-TOPについても聞かせてください。どのようなきっかけでJ-TOPを知りましたか?

2017年に国がん腫瘍内科医の下村先生から、J-TOPというのがあって、今年初めて画像診断の先生を募集することになったから応募しませんか?と紹介されたのがきっかけでした。

その年のワークショップに行き、夏のJME(Japanese Medical Exchange program. 以下、「JME」)に行きました。

 

ーーJMEに参加された感想をお聞かせください。

JME最後のレポートでも書きましたけど、私は多職種で一緒に何かをするといった、チームについてあまり考えたことがなかったんですよね。放射線科医は部屋にこもって作業をすることが多いので、MDアンダーソンに行って、こういう世界があるんだと思いました。いろんなことを考える非常に良い機会になったと思います。

 

ーーJMEではどなたがメンターでしたか?

ペトロス先生という女性の先生で、彼女も画像診断医で乳腺を専門にやっていました。ジャニス先生にもたくさんのことを教えてもらい、いろいろと勉強になったな、違う世界を見たなと思いました。

“リスク評価に分けて検診の内容を分けるというのは、とても良いシステムだと思いました”

ーーJMEでの5週間の中で、菊池先生にとって印象的だったことをお聞かせください。

仕組みの違いが印象的でした。日本と全然違う仕組みでした。

まず、保険制度が違うので、日本では当たり前のようにやっている検査をしていなかったりするんですよね。一番違ったのはMRIでした。

日本だと、乳房のMRIは自己負担額が大体1万円ぐらいですよね。日本では手術の前にMRIをほとんどの症例で撮るんですけれど、MDアンダーソンは、ほとんどマンモグラフィーと超音波で済ませていました。そのかわり、針生検は日本より多くしていました。

針生検をそこまで詳細にする理由は、広がりの診断を日本でやるようにMRIでしないからなんです。なんでしないのかと思っていたら、MRI検査費用がアメリカでは日本とはけた違いに高額であることが最大の要因であることがわかりました。針生検や術中病理診断をたくさん行う分、病理医の先生も国がんやがん研より多くいました。

また、外来のシステムについても日本だと、まずはじめに乳腺外科の外来を受診する形体が多いことから外来が混むのですが、MDアンダーソンでは、「Unknown Clinic」 や「Breast Undiagnosed Clinic」などと細分化されていました。また、全ての検査を終えてから外来に来るんですよね。

日本だとまず外来にきてから検査をし、結果によって行くところが決まって行く。MDアンダーソンの方が患者さんの待つ時間も短い。日本もこのシステムは見習うべき点かなと思いました。でもその分やはり日本の病院と比べると格段に値段が高いというのもありました。

もう一つすごく良いと思ったのはリスク・アセスメントの評価のツールが存在していることです。 リスク評価でリスクの高かった方のみMRIで検診を行い、リスクの高くなかった方はマンモや超音波で済ませられる。受ける必要のない検診はしなくても良いし、 合ってない検診を受けていても見逃す可能性があるし、リスク評価に分けて検診の内容を分けるというのはとても良いシステムだと思いました。

 

ーー日本ではこのシステムを使用していますか?

まだないです。このツールは統計だったり遺伝学だったり様々なデータが必要なんですけれど、日本は遅れているんですよね。

じゃあアメリカに住んでいる日本人のデータは?となっても、生活習慣など様々な要因が異なるのでそれを一概に日本に持ってきて使うことはできない。そこで日本で評価ツールを作成していくために活動していきたいなと思うようになりました。

 

ーー日本が遅れているのはどうしてだと思いますか?

欧米の方が日本よりも乳がんにかかる方が多いことから、乳がん検診に対するニーズが高かったからだと思います。検診に国をあげて力を入れているし、レベルが違う。受診率も8割以上と日本と比べられないぐらいちゃんとしっかりしている。

でも、今の日本も乳がん検診のニーズが高まっています。
だから個別化した検診の必要性があるんですけれど、そのためにはまず、ちゃんとしたリスク評価というのがないと浸透しないと思います。これが今後の課題なのかなと思います。

“個人のリスクを考えた上での検診が行われる世界になったらいいなと思います”

ーー最後になりましたが、菊池先生が描いているビジョンをお聞かせください。

日本人のためにリスク評価のアセスメントシステムを作りたいです。これには放射線科医だけじゃなくて多くの人たちのデータや知識が必要になるので、チームで創出できたらいいなと思っています。

自分でやろうと思いもしなかったはずなんだけど、JMEに行ったことによって先生方の指導もあり、今後の10年何をしたいだろうと考える中でこの思いが生まれ、いろんな人と一緒にやっていきたいなと思わせてくれたのがJMEでした。留学に行く機会をもらって本当に良かったと感じています。

今後、AIなどの新しい技術が発展して行くなかで 、将来的には画像診断の領域も変わってくると思います。

本当は、年齢や家族歴など様々な要因でリスクは変わってくるのに、知識がないために、多くの人はとりあえず検診を受けていれば良いと思ってしまう。でもそれは無意味な検査をすることにもつながるんですよね。

本当にちゃんとしたデータが揃えば無駄は省ける。そこにたどり着くまでに費用など様々な障壁はありますが、一つひとつクリアして、欧米と同じように個人のリスクを考えた上での検診が行われる世界になったらいいなと思います。

 

ーーありがとうございました。

TEXT_Maria Sakiko Suzuki



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